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zoom RSS 発明のためには現象の起こっている原理にまで遡る必要がある

<<   作成日時 : 2014/08/01 21:35   >>

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化学において蒸留という操作は非常に重要である。化学反応を行った後に、反応液から生成物を取り出す手段として用いられるときや、あるいは不純物の混じった化合物を精製するときなどにも用いられる。一番身近な例では、たとえばアルコール発酵で得られた発酵液より、蒸留により高濃度のアルコールを取り出す場合などに用いられる。江戸時代ならばランビキである。

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特殊な現象を示す蒸留に共沸がある。化合物Aと化合物Bよりなる混合物を蒸留する時に、ある温度でAとBが一定の割合で留出してくる現象である。たとえば化合物Aが水、化合物Bがクロロベンゼン(C6H5Cl、沸点131℃)のとき、この混合物は共沸し、90.2℃において水:クロロベンゼン=0.284:0.716の重量比で留出してくる。このデータは日本化学会発行の化学便覧に記載されている。

この組み合わせは化学便覧に記載があったので、蒸留組成がどのようになるかはわかったが、もしこのデータが化学便覧になかった場合には実際に実験してみなければ、その組成を知ることはできないのであろうか。

そんなことはない。水と溶け合わない化合物は水蒸気蒸留という原理で共沸することが知られている。(ただし、どこにも共沸などとは書かれていないので、多くの研究者は化学便覧に記載の共沸とこの水蒸気蒸留を全くの別物と思っている。)詳しい説明は省略するが、この原理を理解していると、蒸留により留出してくる組成を計算で求めることができる。計算結果は、沸点が90.8℃で水:クロロベンゼン=0.285:0.715となる。化学便覧の沸点とは微妙に異なるが、留出組成は一致している。

この水蒸気蒸留の利点は、沸点の高い化合物、たとえば今の場合にはクロロベンゼン(沸点131℃)を、低い温度で蒸留できるということである。留出物は水とクロロベンゼンの混合物とはなるが、互いに溶け合わないので、得られた留出物を分液して得られた、水を微量に含むクロロベンゼン層を100℃に加熱すればクロロベンゼンに若干溶け込んでいる水はクロロベンゼンと水の共沸で取り除かれて純粋なジクロロベンゼンが得られる。

水と溶け合わない化合物であればこの水蒸気蒸留を利用して精製ができる。たとえば、分子量が大きく沸点が高いエッセンシャルオイル(精油、香油)などもこの方法で取得されている。低い温度で蒸留できるので、化合物が壊れることはない。

目で見える現象はあくまでも結果である。その結果を与えた基本的な原理が、その現象の裏には潜んでいる。科学者は、研究者は、そこに隠された原理を理解し、そしてそれを応用することにより、新たなプロセスを作り上げることができる。これが化学反応であれば新反応を開発すること(発明すること、発見すること)につながるわけだ。研究者には、その奥に隠された原理を見抜き、それを利用する高度な能力が求められることとなる。

時には、当初は理解不能な事柄も出現し、あるいは部下や同僚が言っている内容が理解できないことがあるかもしれない。しかし、そこには何か新しいことが隠されている千載一遇の可能性がある。いくら立派な研究者であっても全てに精通しているわけではない。まずは「そんなこともあるのか」から始め、その内容を紐解いていく寛容さが求められる。それが良き研究者になるための要件のひとつであると思っている。



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