化学反応の暴走事故とその分類、および予防策 前例に学び頭を使って事故を防止する
昨日9月1日は防災の日。日本各地で防災に関する取り組みが催されました。
大阪技術振興協会の会誌9月号もズバリ「安全防災特集」です。そこに私の小文が掲載されました。ここに転載させていただきます。
事故とは、定常時よりも非定常時に起こりやすいものです。
技術の話題2 化学反応の暴走事故とその分類、および予防策
技術士(化学部門)畑 啓之
失敗知識データベース中の「化学」カテゴリーには1943年~2003年に起こった事故198件があり、この中に冷却能力が反応熱の発生に追いつかずに反応暴走し事故に至った事例が16件含まれる。反応暴走の原因は表1の5つに分類できた。
化学反応速度はexp(-Ea/(RT))に比例する。Ea(反応の活性化エネルギー)は正の値であり、Rは気体定数であるので、反応温度Tの上昇とともに反応速度および反応熱量は指数関数的に大きくなる。
一方、反応器からの除熱は、反応器外部に冷媒を流すことにより行われ、その除去可能熱量は(反応温度-冷媒温度)に比例する。
図1には、反応温度と反応熱量、除去可能熱量の関係を描いた。反応温度CPまでは反応熱の除去が可能であるが、この温度を超えるとその除去が困難となり反応が暴走する。
表1のタイプAは反応器内の撹拌不足などにより十分な冷却ができなくなった例、タイプBは反応温度を所定の温度よりも高く設定した例、タイプCは所定よりも多くの量を反応器に仕込んで反応を行ったため過剰に発生する反応熱を除去できなかった例である。ケースDは反応原料の仕込途中に一旦撹拌のみを停止し、その後撹拌を再開したときに、撹拌停止時に反応器内に加え続けていた反応原料が一気に反応した例である。タイプEは、反応温度が低いので反応は進まないと思い込んでいたところ、反応が徐々に進んだ例である。各タイプ共に、大きな物的および人的被害の発生を繰り返している。
最近の化学プラント事故事例に目を移すと、まず2012年のX社でのレゾルシン製造設備爆発火災事故(死者1名、負傷者33名)がある。この事故は設備の緊急停止時に起こった反応暴走事故で、原因は反応仕込量を増やしていたこと(タイプC)と撹拌停止による冷却不良(タイプA)、および蓄熱の進行(タイプE)とされる。同じ2012年のY社のアクリル酸中間タンク爆発火災事故(死者1名、負傷者36名)は設備能力向上試験中に起こったもので、状況はX社の事故と酷似している。
この2つの事故は、近年の化学反応の高度化と化学設備の複雑化に加え、非定常作業時に起こったものであり、いままで想像し得なかった原因に由来すると思われがちだが、上で見てきたように表1中の複数のタイプが関与した事故である。タイプが1つでもあると事故に至る可能性が大きいのに、複数個ものタイプが事故発生に関与しているのは、非定常時のリスクを認識していなかったことが主な理由であると考えられる。ヒューマンエラーといわれても仕方がないであろう。
化学設備での爆発事故をなくすには、設備と化学反応を熟知したメンバーによるリスクアセスメントの実施と、その検討結果を受けた設備改善、および現場への教育・訓練が重要となってくる。
化学設備のリスクアセスメントは、この6月よりその実施が法的に義務付けられた。
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大阪技術振興協会の会誌9月号もズバリ「安全防災特集」です。そこに私の小文が掲載されました。ここに転載させていただきます。
事故とは、定常時よりも非定常時に起こりやすいものです。
技術の話題2 化学反応の暴走事故とその分類、および予防策
技術士(化学部門)畑 啓之
失敗知識データベース中の「化学」カテゴリーには1943年~2003年に起こった事故198件があり、この中に冷却能力が反応熱の発生に追いつかずに反応暴走し事故に至った事例が16件含まれる。反応暴走の原因は表1の5つに分類できた。
化学反応速度はexp(-Ea/(RT))に比例する。Ea(反応の活性化エネルギー)は正の値であり、Rは気体定数であるので、反応温度Tの上昇とともに反応速度および反応熱量は指数関数的に大きくなる。
一方、反応器からの除熱は、反応器外部に冷媒を流すことにより行われ、その除去可能熱量は(反応温度-冷媒温度)に比例する。
図1には、反応温度と反応熱量、除去可能熱量の関係を描いた。反応温度CPまでは反応熱の除去が可能であるが、この温度を超えるとその除去が困難となり反応が暴走する。
表1のタイプAは反応器内の撹拌不足などにより十分な冷却ができなくなった例、タイプBは反応温度を所定の温度よりも高く設定した例、タイプCは所定よりも多くの量を反応器に仕込んで反応を行ったため過剰に発生する反応熱を除去できなかった例である。ケースDは反応原料の仕込途中に一旦撹拌のみを停止し、その後撹拌を再開したときに、撹拌停止時に反応器内に加え続けていた反応原料が一気に反応した例である。タイプEは、反応温度が低いので反応は進まないと思い込んでいたところ、反応が徐々に進んだ例である。各タイプ共に、大きな物的および人的被害の発生を繰り返している。
最近の化学プラント事故事例に目を移すと、まず2012年のX社でのレゾルシン製造設備爆発火災事故(死者1名、負傷者33名)がある。この事故は設備の緊急停止時に起こった反応暴走事故で、原因は反応仕込量を増やしていたこと(タイプC)と撹拌停止による冷却不良(タイプA)、および蓄熱の進行(タイプE)とされる。同じ2012年のY社のアクリル酸中間タンク爆発火災事故(死者1名、負傷者36名)は設備能力向上試験中に起こったもので、状況はX社の事故と酷似している。
この2つの事故は、近年の化学反応の高度化と化学設備の複雑化に加え、非定常作業時に起こったものであり、いままで想像し得なかった原因に由来すると思われがちだが、上で見てきたように表1中の複数のタイプが関与した事故である。タイプが1つでもあると事故に至る可能性が大きいのに、複数個ものタイプが事故発生に関与しているのは、非定常時のリスクを認識していなかったことが主な理由であると考えられる。ヒューマンエラーといわれても仕方がないであろう。
化学設備での爆発事故をなくすには、設備と化学反応を熟知したメンバーによるリスクアセスメントの実施と、その検討結果を受けた設備改善、および現場への教育・訓練が重要となってくる。
化学設備のリスクアセスメントは、この6月よりその実施が法的に義務付けられた。
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この記事へのコメント
事故が起きないように装置制御シ-ケンス等が設計されている筈だがシーケンス設計の根拠を理解していないと事故や火災が起きる。
この種の事故はAT車特有の事故である。
談さを乗り越える際にゆっくりアクセルを踏むが段差を越えた瞬間に抵抗が無くなったAT車は踏み込んだアクセルのまま急発進する。
クラッチ車では半クラッチのままなので段差を越えてもエンジンの空噴かしになり急発進することはない。
即ちAT車は半クラッチが出来ないことが急発進事故の原因なのにその事を誰も指摘しないし教習所でも指導も教育もしない。