1年前の今日  「技術者とは何か」 福島第⼀原発事故の教訓から得られるあるべき姿

1年前の今日  2019年7月17日



技術者は社会に貢献する人でなければならないが、そのためのベースをどこに置くかが強く求められる。最近は多くの企業不祥事が紙面をにぎわせたが、ベースを会社に置くと反社会的な行動にも鈍感になり、その代償として社会に大きな損害を与える可能性が出てくる。

法律等や社会規範等でこの好ましくない傾向を抑え込もうとの試みも多くなされているが、結局のところは技術者の自覚の問題、最近の言葉でいえば「技術者倫理」の問題である。

この技術者倫理さえしっかり踏まえていればすべての不祥事はなくなるかと言えば、けっしてその保証はないが、不祥事の起こる頻度、特に大きな規模の不祥事が起こる頻度はかなりの程度、低減できるのではないかと考える。

さて、日本で起こる災害の多くは人災である。たとえ自然災害に見えたとしても、その中には少なからず人災の要素が紛れ込んでいる。リスク管理の考え方は、従前は「低い確率で大きな災害=高い確率で小さな災害」とみる向きも多かったが、福島第一原発の重大事故がその見方を大きく変えた。すなわち、100年に一度、1000年に一度起こる重大災害は、頻度と災害の重大度をかけ合わせれば1年あたりの損害額はたとえ小さなものであっても、それが一度起こってしまえば生活基盤が奪われる重大インシデントとなるということである。

福島第一に関しては、なぜその重大事故が起こったのかは一般大衆はこと(災害)が発生したのちに知ることになった。だが、関係者の間ではその発生に関して事前に議論がなされていたようである。そのあたりの事情を、いくつかの記事から拾い上げ、この重大事故が起こった必然を、理解できる形に書き出してみたい。

「技術者とは何か」 中村昌允 技術士 2019年2月(日本技術士会)より
技術者はリスクを合理的に実現可能な限り低減することに努めるが、「ここまでしか安全は保証されていないこと、どのようなリスクが残っているか」を社会に説明する責任がある。
吉田昌郎氏は福島第一原発所長に就任する前の2007年4月に東京電力の原子力設備管理部長に就任し「東電の津波対策」を判断する立場にあった。津波予測に関する当時の政府見解は、土木学会の「5.7m」であった。吉田氏は就任直後に起きた中越沖地震で活断層が問題になったことを受けて、東電独自の試算を行い、15.7mの津波が起こるとの結果を得た。
この2つの数字を総理大臣を本部長とする中央防災会議で検討の結果、「土木学会」の見解を採用し、2006年1月25日「津波高さは6.1m、福島県沖と茨城県沖を防災対策の対象から除外する」と発表した。

ここで私のコメントであるが、リスク管理の観点からは、より被害が大きな想定を重視すべきである(すべきであった)。それがリスクマネジメントの基本である。

さらに私のコメントであるが、この中央防災会議の行われた当時は小泉純一郎首相であり、氏は現在、日本から原子力発電所をなくすべく奔走中である。

小泉純一郎(Wikipedia)
脱原発
総理大臣時代は原発推進の立場だったが、東日本大震災を経た2011年夏頃までには「脱原発」を主張するようになっていた。2013年秋頃からは、講演会等でも盛んに発言するようになり、メディアに頻繁に取り上げられるようになった。2018年1月10日には、自らが顧問を務める民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」の記者会見で「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」を発表。内容は原発の即時停止を求めるもので、法案への支持を与野党に呼び掛けた。


吉田所長は英雄か、それとも事故の原因を作った人物か
事故直後には、原発を爆発から救った英雄としてたたえられる一方で、高い防波堤建設を見送った張本人として厳しい目が向けられた。
本当に救国の英雄だったのか? 東電・吉田昌郎元所長を総括する(黒木亮 2015.7.22、gendai)には次のように記されている。
吉田氏は原子力設備管理部長だった2008年6月に、社内の土木調査グループから、福島第一原発の敷地南側で15.7mの津波が発生する可能性があるという報告を受けた。しかし、それは三陸沖の波源モデルを福島第一原発に最も厳しくなるように想定して試算したもので、実際にはこのような津波は来ないだろうと考え、特段の対策は採らなかった。また、部下に対して、原子力安全・保安院からはっきりと試算結果の説明を求められない限り、試算結果を説明する必要はないと口止めしていた。
吉田氏は原子力設備管理部長時代に、福島第一原発の現場から上がってくる補修や保守点検作業を、コスト削減のために大幅に切り詰め、もしそうしたことがなければ、原発事故も少しはマシだったのではないかという声もあった。



福島第一原発の事故原因を考えてみるに、確かに「予期せぬ?」大きさの津波が襲来したという事実はあるのだが、このような致命的な出来事は決して起こらない、少なくとも私の担当のうちにはこのような最悪の事態は起こるはずはない、との考えが各関係者にはあったのではないだろうか。その関係者とは、まずは東電の技術者。企業においては基本的には上司あるいは上層部の方針が絶対である。
企業においては費用をかけずに利益を出すということが絶対的善である。しかし、この考え方に大きな落とし穴があったことは、旧経営陣が刑事訴追を受けたことからも明らかである。次に政治家。こちらは責任を問われることがなかったが、原子力事業は国庫からの補助で成り立っている。政治家はそのポジションを刻々と変化させていくので、自身の在任期間に「仕事をすること」「問題を起こさないこと」が政治の階段を上っていくのに必須となる。少しでも国庫からの出費を抑えることが、政治家としての手腕であるとすると、安全は軽視される可能性がある。上で見てきたように、津波高さの予想は総理大臣を長とする会議で低く抑えられ、東電社長は出費が抑えられたと胸をなでおろし、技術部長は問題が喉元を、その時には何ら問題を起こすことなく通り過ぎて行ったので肩の荷を下ろし、と言ったところだろう。その結果、日本の歴史上、最悪の事態が発生したわけである。津波は天災であるが、福島第一原発のメルトダウンは人災の要素が大きい。


最後に私が考える技術者魂の神髄は、言葉は極端であるかもしれないが「不可能を可能にするのが技術者」である。技術者は常識や思い込みにとらわれてはならない。
技術者は知恵を絞らなければ社会的責任は果たせない
福島第二は非常用発電設備が機密建屋内にあり、女川原発は高台にあったため、電源喪失とはならなかった。高い防波堤を作らなければならないとの固定観念を捨て、100年、1000年に一度の大災害から、いかにすれば原発を守り抜けるかをゼロベースで考えてみるのも、技術者に課せられた使命である。答えは一つとは限らない。唯一と思われる答えに固執すると、そこで思考が停止する。
さらに言えば、隣の原発で実施している対策が福島第一原発に水平展開されなかったことは重大である。技術者はアンテナを高くして情報を収集すると同時に、高いコミュニケーション能力を持つ必要がある。「三人寄れば文殊の知恵」 常識にとらわれないバカ話からも思わぬ知恵が湧き上がってくるものである。



(参考)過去に記した私のブログよりの抜き出し
https://alchemist-jp.at.webry.info/201602/article_14.html

ことの詳細(時系列も含め)はこのブログに記してあります。

ブログ 2014年9月12日
福島第一原発・吉田調書が公開された、「そんな大津波が来るはずないと」 抜粋
本日の日本経済新聞に、「吉田調書 福島第一原発事故」が掲載された。政府の動き、東電本社の動き、そして福島第一原発における吉田所長の判断と行動が記してある。そして、記事は次のように結んでいる。
「2010年6月に福島第一原発の所長に就任した吉田氏は同月、土木学会の調査で津波の高さの想定値がこれまでより高まりそうだと経営陣に伝えた。防潮堤をかさ上げする必要があるが、吉田氏自身も「そんなのって来るの」との感覚だった。
以下は少し長いので、そのポイントとなる部分は次のとおりである。

2011年12月7日文書
 2007年に、「津波により非常用冷却ポンプが使用できなくなり、炉心が損傷する」との報告が日本原子力学会でなされている。 



2011年11月29日文書
 2008年に専門家が、第一原発に15mの津波が押し寄せる可能性を指摘したときに、そんな大きな津波がくるはずはないと一人で声を大にして突っぱね、何の対策も講じなかった。(と伝えられている) 結局は本当に15mの津波が来た。

津波が原子力発電所を襲うとどのよう事態が想定されるかは、すでに2007年の日本原子力学会で報告されていました。報告者の原子力安全基盤機構となっていますので、かなり信頼できるシミュレーション結果ではないでしょうか。

そしてこのシミュレーション通りに事態は進み、今日の日本の苦難へと至っています。この発表の詳細は本紙を取り寄せなければわかりませんが、この要旨を読む限り、間違いなく今回の事故を想定していたものと考えられます。



図表入りの記事はこちらにあります。
http://www.alchemist.jp/Blog/190717.pdf

ブログ一覧はこちらにあります。
http://www.alchemist.jp/Blog/Blog-002.html



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